ちっと鹿児島を推してみもんそか

上京して15年、遠くからそっと郷里を推してみるブログです。

『西郷どん!』第5回の鹿児島弁を翻訳してみもんそ

『西郷どん!』第5回。第3回と第4回の翻訳をまだ書いてないんですけど…とにかく5回を一部翻訳してみます。

 

「おやっとさあじゃしたなあ」が、沁みるのぉ

第5回のゲストはジョン万次郎。漁の途中で遭難しアメリカに渡った万次郎が、日本に帰国するために琉球に渡り、そこで捕まって薩摩に引き渡され…しかし何もしゃべらない万次郎の素性を探るべく吉之助に密命が下る、というお話でした。


歴史の表舞台に出てくるまでの吉之助は特に史料も残っていないでしょうから、空白の期間に何があったのかドラマを描くのが作家の腕。『西郷どん!』は物語が華やかですね。とはいえ、林真理子さんの原作にはなかったエピソード連発で、もう脚本・中園ミホさんのオリジナル作品ってことでいいんじゃないでしょうか。

 

吉之助父 そいはだいじゃ
吉之助  おいにもわかいもはん。よかで戸を閉めっくいやんせ

吉之助父 それは誰だ
吉之助  私にもわかりません。いいから戸を閉めてください


吉之助母 はら! 目を覚ましもした
吉二郎  兄さあ、目を覚ましもした
吉之助  おお、起きたか。おいじゃ、わかっか。ちょっと待ってくいやんせ。もうすぐ飯がたけっで

吉之助母 あら! 目を覚ましました
吉二郎  兄さあ、目を覚ましました
吉之助  おお、起きたか。私だ、わかるか。ちょっと待ってくださいね。もうすぐ飯が炊けるから

吉之助母  よかよか。よっぽどおなかがすいちょったんじゃね
吉之助祖母 海の向こうから大変な思いをして辿り着いたんじゃろ
吉之助母  おやっとさあじゃしたなあ。遠慮せんでよかで、元気になるまで好きなだけここにおったらよか

吉之助母  いいのよいいのよ。よっぽどおなかがすいていたんだね
吉之助祖母 海の向こうから大変な思いをして辿り着いたんだろう
吉之助母  おつかれさまでしたねえ。遠慮しなくていいから、元気になるまで好きなだけここにいたらいいのよ


それにしても西郷家のみなさん優しい。外国から来たらしい怪しい男だろうと困った人は自分たちの食事を削ってでも助けるし(吉之助の困った人を助ける性分は親譲りですよね)、なにより、その怪しい男を連れてきた吉之助を信じているんですねえ(涙)

鹿児島弁としては【おやっとさあ】が初めて出てきましたね。【おつかれさま】の意味です。今でも、うちの親戚の集まりなんかでは「おやっとさあでした」と焼酎を酌み交わしていたりします。職場ではあまり聞きませんね(普通に「おつかれさまでした~」と言っています)。鹿児島でよく飲まれている「おやっとさあ」という焼酎もありますよ(こちら)。


にゃにゃにゃ!ちょちょちょ!じゃじゃじゃ!

満佐さんが「あら!」を「はら!」と発音したり、吉之助の「へ!?」だか「え!?」だかわからない驚きの表現だったり、第5回の演技では、感嘆詞の表現が豊かになっているなあと感じました。思わず出てしまう言葉がとても鹿児島っぽくて、生き生きして見えると言いますか。これ鹿児島人にしか伝わらないのかもしれませんけど…。


なかでも今回一番特徴的だったのは、お城に呼び立てられたこのシーン。

山田   何を見ている?
吉之助  にゃ! あ、おひとりでございもすか
山田   わしでは不服と申すか
吉之助  にゃにゃにゃ! 滅相もなかこっでございもす!

山田   何を見ている?
吉之助  いえ! あ、おひとりでございますか
山田   わしでは不服と申すか
吉之助  いえいえいえ! 滅相もないことでございます!

 

【にゃ】は【うんにゃ】【うんな】と同じで、【否】という意味。とはいえ、お城に呼ばれるようなかしこまった場で斉彬の側近相手に【にゃにゃにゃ!】三連発は、思わず口をついて出た、という感じがしますね。当時の言葉使いはわからないので、現代に照らし合わせた感想ですけど。
吉之助の結婚について話すシーンでは

吉之助父  実はのう、うちの吉之助が嫁をもらうことになったんじゃ。今日その話をまとめにいって つい酒を飲んでしもうた。相手は御前相撲で吉之助を見初めたちうて
吉之助祖母 女子のほうから吉之助を見初めたとか
吉之助父  んにゃんにゃ。見初めたとは親父殿

と落ち着いて話しているので【にゃ】ではなく【んにゃ】なのではないかと思います。
大久保父子の赦免を願い出た後で正助に礼を言われるシーンでも

吉之助  んにゃんにゃれいには及ばん!

糸に草履のお礼を述べられたあとも

吉之助  んにゃんにゃ

と言っていますね。
ジョン万次郎の言葉がわからず困惑する吉之助に光が差したシーンでは、


正助   吉之助さあ、生きちょったか
吉之助  こんとおりじゃ。心配かけてすいもはん。
     正助どん、こいは内密にせんといかんとじゃが、正助どんはメリケンの言葉がわかいもすか?
正助   メリケン? 琉球から戻った父は少し話せっが、おいはほとんどやっせん
吉之助  そうか
正助   じゃっどんないごて?
吉之助  んにゃ実は、メリケンから客人がきちょって
正助母  こいを使ってたもんせ。旦那さあが使っちょった辞書です
吉之助  ありがて~ちょちょちょ(と正助を連れていく)
正助   ええええ~!?


正助   吉之助さあ、生きてたか
吉之助  このとおりだ。心配かけてすみません。
     正助どん、これは内密の話なのだが、正助どんはメリケンの言葉がわかりますか?
正助   メリケン? 琉球から戻った父は少し話せるが、私はまったくダメだ
吉之助  そうか
正助   しかし、どうして?
吉之助  いや実は、メリケンから客人が来ていて
正助母  これを使ってくださいませ。旦那さまが使っていた辞書です
吉之助  ありがたい~ちょっとちょっとちょっと(と正助を連れていく)
正助   ええええ~!?

 

ここの【んにゃ】も、訳すと【いや】ですが、【否】の意味というより、前置きというか、とりあえず口から出てくるみたいな感じの使い方ですが、鹿児島弁の話し方もまさしくそんな感じでした。鈴木亮平は本当に方言がうまい…。
そして、【ちょちょちょ】。【ちょっとちょっとちょっと】と標準語のままの意味。なのですが、【ちょっと】は鹿児島弁にすると【ちっと】とか【ちょっち】になると思うのですが、焦っているからそれがもっと縮まって【ちょ】になる……という理解であっていると思うんだけど!
たとえばですが、友達がその場でまずいことを言って「ちょっと…」と隣の部屋にでも連れて行こうとしたときに、「え?何?今話してるんだけど」「いや、ちょっと…」「だから話が」「……ちょ!!!!(いいからわかれバカ!)」となる感じ…いや、わかんないですけど! 私のフィーリングにはとても合ってて、「ちょちょちょ」を聞いた時、「あーわかるー!」となったんですよ…


ちなみに、西郷邸から逃げようとする万次郎を追う時にも「ちょちょちょ!!!」と言っています。


【にゃにゃにゃ】【ちょちょちょ】ときたら、【じゃじゃじゃ】もありました。

 

吉之助  ジョン・マンさあ、本当のことを話してくいやんせ。我らの殿は異国のことをよう学んでおらるっお方じゃ。ここで本当のことを話しても死罪にはならん
正助   じゃっじゃっ。死罪にすっつもりなら、とっくにそん首は飛んじょっはずじゃ

吉之助  ジョン・マンさあ、本当のことを話してください。我らの殿は異国のことをよく学んでおられるお方だ。ここで本当のことを話しても死罪にはならん
正助   そうだそうだ。死罪にするつもりなら、とっくにその首は飛んでいるはずだ

 【じゃ】は【そうじゃ】を短くしたもの。……単に気が短いんですかね、薩摩隼人。とにかく語尾だけで完結させたがりです。現代でも相づちの「そうですよね~」を「ですよね~」と言うのが普通です。「だよ~」とか「だからよ~」とか「そう」は徹底的に略します。大学の頃、県外出身の先輩に「ですよね、って丁寧語のつもりで使ってるんだろうけど、県外では失礼だからね」って言われたのを思い出します。ええ、最大級の丁寧な相づちのつもりでしたよ…。

 

ところで第1回で【やっせんぼ】は【やっせん】=【ダメ】、【ぼ】=【坊】で、一般的には【意気地なし】的な意味だと書きましたが、

ayanoaya.hatenablog.com

今回の第5回は

琴  熊吉、どげんしよ…
熊吉 あん分では若さあは一生糸さあの本心には気づきもはん
琴  兄さあの…やっせんぼ!

まさに【ダメ男】と訳すにぴったりな使用法で笑ってしまいました。幅広いですね、やっせんぼ!