ちっと鹿児島を推してみもんそか

上京して15年、遠くからそっと郷里を推してみるブログです。

『西郷どん!』第1回の鹿児島弁を翻訳してみもんそか

2018年の大河ドラマ、始まっていますね。
西郷隆盛の生涯を描く『西郷どん!』
「さいごうどん」ではなく「せごどん」と読みます。
鹿児島弁は短く詰めて発音することが多いので「さいごう」は「せご」となるんです。
とは言うものの、私が生まれてン十年の鹿児島では、「せごどん」と呼んでいる人には会ったことがないですけどね笑。みんな普通に、「さいごうさん」と呼びます。幕末の鹿児島弁と現代の鹿児島弁はだいぶ違うんです。

 

「やっせんぼ」っちどげなこっな


『西郷どん!』1回目の放送後、ネットでは
「鹿児島弁がわからない」「字幕を出したら字幕も鹿児島弁だった!」
という声が多くニュースにもなっていました。

鹿児島ネイティブから見ると、イントネーションは鹿児島弁にこだわり、
単語レベルでは典型的な【ございもす】や【~じゃっど】を多用、
あとは現代語からも類推しやすい言葉を使ってわかりやすくしているなと思ったのですが…
よくよく考えて見ると、第1回のタイトル「薩摩のやっせんぼ」からして、【やっせんぼ】がわからないですよね!!!!
島津斉彬と西郷小吉が出会う場面で、斉彬様御自ら

薩摩隼人が聞いてあきれるわ。お前は一番幼い仲間を見捨てて逃げた
弱い者の身になれんやつは 弱い者以下のクズだ!
そういうやつのことを、薩摩じゃ「やっせんぼ」って言うんだろ?

と説明してくださってますが……斉彬様がおっしゃるほど、高尚な意味が含まれているかなあ(笑)

【やっせんぼ】は、【やっせん】+【ぼ(坊)】。

【やっせん】とは、役をせん(しない)、つまり役に立たないことです。
他にも、「ダメ」とか「使えない」という意味でも使います。
【ぼ(坊)】は男子のこと。
なので、【やっせんぼ】とは【ダメな男子】ってことなんですね。
あくまで私の感覚ですが、
「みんなで高いところから飛び降りる競争をしている時に怖がって飛び降りられない」とか「お化けが怖くてトイレに行けない」というシーンでよく使われているように思います。ニュアンスとしては【弱虫】【意気地なし】。
まあとにかく、言われたら大変悔しい言葉です。友達との喧嘩で言ってきたら、確実に相手には悪意があります(笑)


【やっせんぼ】が登場するシーンは、他にもあります。

下加治屋町郷中と高麗町郷中が川で喧嘩する場面
大久保正助下加治屋町に越してから芋くさくなったと馬鹿にされ
「口先だけんやっせんぼども! 腕で来んか!」

・肝試しでお菓子を手に入れるため船を着けるも天狗の噂に怯える場面
男装した糸が登場し「天狗が怖くて菓子を諦めっとか、やっせんぼ」

・妙円寺詣りの報復で囲まれる場面
※「やっせんぼ!」と誰かが叫んでいるのですが誰を指してなぜそう言ったのかわかりませんでした…

・斉彬に三度再会した小吉が、刀を持てなくなったと泣く場面
「めそめそするな! このやっせんぼ!」

とにかく【やっせんぼ】が連発された第1回。薩摩の子供たちは主に挑発目的で使っているのに、斉彬だけは小吉を鼓舞するために使っているところが違いますね。さすが英邁の誉れ高いお世継ぎ様です!


第2回の大人になった小吉(吉之助)も、「おいは女子の一人も救えないやっせんぼじゃ!」と泣くシーンがあるので、意気地なしよりも、ずっと深く大きな意味でこれからも使われていくのだと思います。斉彬の【やっせんぼ】は、この先ずっと吉之助を励まし、時には縛る言葉になるのかもしれませんね。

 

鹿児島弁の台詞を翻訳してみもんそ

さて、このテキストを書くために録画を見ながら台詞を書き起こしたので、せっかくだから他の場面の主な鹿児島弁も翻訳してみましょう。全文翻訳しても良かったのですが著作権を侵害しまくりそうなので、私から見て「わかりづらいかな?」と思うところを抜粋しました。
私は鹿児島弁ネイティブですから話せるし聞き取れますし意味はわかりますが、日本人が日本人だからといって国語や文法が得意なわけではないように、全部フィーリングです。責任は負いかねます!

 

★上野の銅像の除幕式★

(従道) 兄さぁはいつでん、あの姿で狩りに行っちょったなあ
(糸)  ちごっ。うちの旦那さぁはごげな人じゃなか。
(従道) 姉上。そげんこっ言うもんじゃなか。
(糸)  ちごっ。ちごっ。ちごっ。ちごっ。うちの旦那さぁはごげな人じゃあいもはん!

(従道) 兄さんはいつても、あの姿で狩りに行っていたなあ
(糸)  違う。うちの旦那さんはこんな人じゃない
(従道) 姉上。そんなことを言うもんじゃない。
(糸)  違う。違う。違う。違う。うちの旦那さんはこんな人ではありません!

 

★西郷家の庭先で★

(正助父) おお正助。朝寝坊しおったか。キバってこい正助!
(正助)  はい。父上。
(小吉父) 親父もキバれ。
(正助父) 吉兵衛さぁに言われんでも いつでんキバっちょっ!

(正助父) おお正助。朝寝坊したか。頑張ってこい、正助!
(正助)  はい。父上。
(小吉父) 親父も励め。
(正助父) 吉兵衛さんに言われなくてもいつでも励んでおるわ!

【きばる】とは【気張る】。標準語の意味とは若干違い、【頑張る】【励む】のこと。どちらかというと、きつい時に頑張る、といったニュアンスのような気がします。
鹿児島出身の長渕剛の『気張いやんせ』という歌でご存じの人も多いのではないでしょうか。

気張れ 気張れ 気張いやんせ
一度どま け死ん限い 気張いやんせ

(頑張れ 頑張れ 頑張りなさい
一度くらい 死にそうなくらい 頑張りなさい)

ところでこのシーン、違和感があったんですけど、『西郷どん!』の世界では、西郷家と大久保家はお隣なんですね!(公式参照)史実はお隣ではないけどご近所さんです。


★天狗との出会い★

(小吉)ここへ来ればひったまがっほど甘かお菓子にありつけるっち聞きもした

(小吉)ここへ来ればとても驚くほど甘いお菓子にありつけると聞きました

【ひったまがる】は【たまげる】の最上級、といったところでしょうか。バブリーの「おったまげ~!」と同じですね笑! ところで「たまげる」は「魂消る」と書くらしいです。魂が消えるほどの驚きなんですね~


★斉興と斉彬★

(斉興) 相手にすんなっちいっちょっじゃろが
(斉彬) 欧米諸国が押し寄せてくることを考えれば新式の兵器を早急に開発せねばなりません
(斉興) また藩の金を無駄遣いすっ気か。じゃっでおまえに藩主の座は渡さん

(斉興) 相手にするなと言っているだろうが
(斉彬) 欧米諸国が押し寄せてくることを考えれば新式の兵器を早急に開発せねばなりません
(斉興) また藩の金を無駄遣いする気か。だからおまえに藩主の座は渡さない


★久光とお由羅★

(由羅) あなたはいずれ藩主になってもらわねば
(久光) 藩主!? おいが!?
(由羅) もう! 弟だからといって負けてはなりません。
(久光) じゃっどん母上…
(由羅) ん~その薩摩弁も直しなさい。
     薩摩の「地五郎」などと馬鹿にされぬよう江戸や京のことをもっと学ぶのです!
     国元で暮らしたこともない斉彬にみすみす藩主の座を譲ってもいいのですか!?
(久光) そげんこつ急に言われても…

(由羅) あなたはいずれ藩主になってもらわねば
(久光) 藩主!? 俺が!?
(由羅) もう! 弟だからといって負けてはなりません。
(久光) そうは言っても母上…
(由羅) ん~その薩摩弁も直しなさい。
     薩摩の「地五郎」などと馬鹿にされぬよう江戸や京のことをもっと学ぶのです!
     国元で暮らしたこともない斉彬にみすみす藩主の座を譲ってもいいのですか!?
(久光) そんなこと急に言われても…

【~じゃ】は【~だ】。【じゃっで】は【だから】。【じゃっどん】は【だけど】。
ここには出ていませんが【じゃっど】は【そうだ】になります。
それにしても久光がかわいいですね! 私は大好きです。後々どんな打ち上げ花火を見せてくれるのか楽しみですね。


★妙円寺詣り★

(小吉) 伊東のおかげじゃ。ほんのこて速かなあ。

(小吉) 伊東のおかげだ。本当に速いなあ

【ほんのこて】は【本当に】。【本】の【こて(事)】。「本当か」は「ほんのこてな」となります。年配の方はよく使いますね。

(少年) わいは岩山んとこの娘じゃなかか
(正助) おはんのせいでおいたちはとんだ恥をかいた!

(少年) おまえは岩山のところの娘じゃないか
(正助) おまえのせいでおれたちはとんだ恥をかいた!

【おい】は【俺、僕】、【おはん】は【おまえ・あなた】、【わい】は【おまえ】。
【わい】は【おはん】より相手を下に見た呼び方です。
糸に【おはん】を使っている正助や小吉は根が良い子に見えますね。

(糸)  ないごて女子は郷中に入ったらいかんとですか

(糸)  どうして女はは郷中に入ったらいけないのですか

【ないごて】は【なぜ・なんで・どうして】。「ほんのこてな」のように「ないごてな」とか言いますね。

(小吉父)お世継ぎ様が!
(正助) 小吉さぁにお言葉をばかけられもした。
(小吉祖父)なんちな?
(小吉) 子供は国の宝だ。
(正助) おまえたちのような者がおれば薩摩も安泰だ。頼もしく思うぞ、ち。

(小吉父)お世継ぎ様が!
(正助) 小吉さんにお言葉をかけられました。
(小吉祖父)なんというふうにか?
(小吉) 子供は国の宝だ。
(正助) おまえたちのような者がおれば薩摩も安泰だ。頼もしく思うぞ、って。

【なんちな】の【な】は上の「ほんのこてな」とかの用法と同じ。【なんち】は【なんだって】。ここでは感嘆ではなく、言葉の内容を問うています。
【頼もしく思うぞ、ち】の【ち】も【なんち】の【ち】と同じですね(たぶん)。


★洗濯のおばさん★

(小吉) ないごて別々に洗濯しちょっとな
(女)  知っちょっじゃろうが! そいは男んしのたらい。そっちはおなごんしのたらいよ。
(小吉) 手はずがかかっ。一緒に洗わんとか。
(女)  ないでんかいでん、そげな決まりじゃっで
(小吉) ないごてな?
(女)  知らん!

(小吉) どうして別々に洗濯してるんだ
(女)  知ってるでしょう! それは男の衆のたらい。そっちは女の衆のたらい。
(小吉) 手はずがかかる。一緒に洗わないのか。
(女)  なんでもかんでも、そういう決まりだから
(小吉) どうして?
(女)  知らん!

川で洗濯をするおばさん役の女優・重田千穂子さんは鹿児島出身。…ということは存じ上げなかったのですが、見事な鹿児島弁におおおっとなりましたよねー。イントネーションが完璧なのはもちろんなのですが、「洗濯が忙しいのに話しかけてくる稚児にイライラしている」様子が台詞の音だけでも見事に表現されていました~! 「おなごんしのたらいよ!」と言い捨てる感じ、特に語尾の「よ!」がたまりません! 「よ」の中に音の高低があって、そこに、わかりきってることをと馬鹿にした感じとか取り合いたくない感じとか、でも上から目線とか、いろいろ含まれていますね!
最後の「知らん!」は、字幕では「知らん」でしたが、音で聞くと「知あん」「知やん」の中間のように聞こえました。それがまた鹿児島っぽい。鹿児島弁は文字通りではなく発音すると音が流れるような印象があります。
本当に素晴らしい鹿児島弁での演技だったのですが、書き起こしても他の台詞より大分ネイティブなので、きっと台本の鹿児島弁をよりネイティブに変えて演技されたのでしょうね。
しかし出演者全員がみんなこのレベルだったら県外の方にはまったく理解できなくなってしまいます笑

 

★小吉と父★

(小吉) 父上、おいはいつか斉彬様のおそばにお仕えできもんそか?
(小吉父)おはん ないを言うか
(小吉) おいはこれから、もっともっと精進しもす。
     今にきっと赤山先生のように、斉彬様のお役に立つような身にないたか
(小吉父)こん馬鹿たいがっ。おのれの身分をわきまえんか
     前から言おうち思っちょったが無敵斎のように強くなれっち
     うちんばあさんたちにそそのかされちょっようじゃが
     思い上がったらやっせんど

(小吉) 父上、私はいつか斉彬様のおそばにお仕えできるでしょうか?
(小吉父)おまえ、なにを言うか
(小吉) 私はこれから、もっともっと精進します。
     今にきっと赤山先生のように、斉彬様のお役に立つような身になりたか
(小吉父)この馬鹿たれがっ。おのれの身分をわきまえんか
     前から言おうと思っていたが無敵斎のように強くなれと
     うちのばあさんたちにそそのかされているようだが
     思い上がってはいかんよ


【やっせんど】の【やっせん】は、【ダメ】という意味です。【やっせんぼ】の【やっせん】と同じですね。しかしただ「ダメ」と言われるより「やっせん」と言われると「てんでダメ」と言われているような気がする…のは、私だけかもしれませんが。ちなみに、「てんでダメ」的な鹿児島弁としては【ちんがらっ】があります。


★赤山さま★

(赤山) おい、おはんらこっち来てめ。よかもん見せてやっで

(赤山) おい、おまえたちこっちに来てみろ。いいものを見せてやるから


【来てめ】の【め】がいいんですよねぇ。説明できないんですけど。
キャストみんな抑揚を最大限につけて声を張っている中で、とってもナチュラルに存在している赤山様の抑えた台詞回しがさすがネイティブ。あまりにネイティブすぎて、するする~っと耳を抜けてしまうほど自然でした。